色々と嬉しかった一日

今週月曜日、東京で開催されたダイキン協創技術フォーラムなるイベントに参加してきました。ここのところ、EVの熱マネージメントシステムに関係する技術相談が連続したもので、ヒートポンプ技術の現状と勘所の把握のため参加しました。立ち位置が分からなければ、アドバイスのしようもないですからね。元々、小生の技術者人生はカーエアコン用コンプレッサの設計から始まっているので、この分野の言葉は理解できます。ですが、この分野で今何が起きているのかというと、この分野から離れて久しく正直よく分からないのです。

でも参加して、認識を新たにしました。自動車業界では、盛んに100年に一度の変革期と取り上げられ、何かと話題になる電動化や、自動運転コネクテッドカーに関する技術ですが、この業界も同様に変革期に入っているのだそうです。すなわち、脱炭素、省エネの流れでヒートポンプシステムが主流となり、熱マネージメント技術が群雄割拠しているのです。まだ、業界標準というモデルシステムが確立されていない中、各社イニシアティブを取ろうと頑張っている状況は、確かに変革期の様相を呈しています。

今回のフォーラムは、新しいヒートポンプシステムを構成する各技術の紹介がメインだったと思うのですが、個々の技術云々よりも、社会、業界全体を俯瞰する発表内容、あるいは技術交流会での話に共感しました。というのも、さすがに個々の技術については開示する内容に制限が加わるので、核心部分はよく分からず、技術者としてはモヤがかかったような感じ。自ずと、外部識者含めた全体的な話に関心が移ってしまいました。これは、仕方ありませんね。

という訳で、まずはヒートポンプの将来に関するW大学S教授の講演から。日本におけるエアコンのガラパゴス化の話。要は、携帯と同じで、本当にユーザーが必要としているのか分からないさまざまな機能の開発に時間を割き、基本の性能(冷房能力)に関しては未だ統一された評価指標もなし。どこを目指して進んでいるのか、音頭をとる人も組織もなく、結局は企業任せ。こんなことになっているのは日本だけという指摘でした。その通りですよね。日本で勝てれば世界でも勝てる的な高度成長期的な発想は即捨てるべきです。気付いた時にはもう手遅れという事態を何度経験すれば、理解するのでしょう。これは、企業の問題であって、技術者の問題ではありませんよね。昭和世代が消えれば改善されるという話でもありません。眠りから覚めた人から、危機を発信しなければならないと感じました。まずは、外の世界にも目を向けることが必要ですよね。

次は、T大学H教授のEVに関する講演から。自技会の方なので、発信力は大きいと思うのですが、業界の流れとベクトルが違っているのは何ででしょう。それゆえ、面白かったですが。要は、EV特にバッテリーEVは未来がないのでやめた方がいいという趣旨のお話です。結論の根拠は簡単で、リチウムイオン電池の生産に不可欠なコバルトの安定供給が見通せないから。つまり、EVが普及し続け、生産が拡大していくにはこの世界的な課題を解決する必要があり、今の日本がイニシアティブをとって解決できるとも思えない。電力を重いバッテリーに蓄えるのではなく走行中給電にするのが日本のEVが発展していく唯一の解決策になるという趣旨のお話。なるほど、コバルトの代替技術がちらほら話題には上っていますが、実用化には程遠いということなんでしょう。

小生は自動車産業に身を置きながらもEVには否定的でした。自動運転含め業界の中では100年に一度の変革期と盛り上がっていますが、ユーザーが置き去りになっている気がしてならないのです。ユーザーは本当にEV、自動運転、コネクテッドカーを必要としているのだろうか?立ち止まってよく考えるべきだと思います。世界的な流れに翻弄されてはいけません。日本自らが行く末を考えなければ、この国は終わります。という訳で、T氏もおっしゃっていましたが、日本が生き残るためには、資源に頼らない原子力エネルギーを最大限に活用することが唯一の、現実的な解決策。そういう意味では、FCV(燃料電池車)こそ日本が力を注がなければいけない分野だと思うんですけどね。世界を置き去りにするEVの核心技術を日本企業が持っていれば別ですが。。。他国と同じ目線で、利益を追求することだけ考えていては、日本企業が没落していくのが目に見えます。

最後は、MBD(Model Based Development)に関するカーメーカーM社のシニアフェローH氏のお話から。現在ではほとんどの企業が取り入れている開発手法なので、皆さんご存じだと思いますが、試作を開始する前にシミュレーションで最適化を行っておくモデルベース開発です。具体的な話の中身はさておき、H氏が力説していたように、人の真似をして、あるいは上司、会社の方針に従って開発を進めていては技術力は進歩しない。自分自身が苦労をして解決策を見出さなければ、技術力は身に付かない。身についた技術力は、後に続く後輩のために使える状態にして残していくとのこと。ナレッジエンジニアリングの極みですよね。前述のS氏も、困難じゃなければ技術は進歩しない、困難を自分で乗り越えてこそ技術力は身に付くといおっしゃっていました。まさにそうですよね、サラリーマン技術者になってはいけません、自身が何をしているのか立ち止まってよく考えましょう。それこそ他国の思う壺です。

技術者の皆さん(第一線で実務に取り組んでいる皆さんのことです)、一緒に頑張りましょう。技術者のステータス向上と、価値創造にかける時間創出に当事務所も貢献していきたいと、今回認識を新たにしました。今回のフォーラムの最後に意見交換会があり、H氏とお話をさせていただきました。色々と共感させてもらい、とても嬉しかったです。大切なお話、ありがとうございました。



















H氏と。(写真掲載は、ご本人の了解を頂いています)