ドイツの街歩き:ドイツ人の心の故郷(Eisenach)

Wartburg(ヴァルトブルク城)はドイツのほぼ中央、Eisenach(アイゼナッハ)という街に築かれ、今ではユネスコの世界文化遺産に登録されています。場所は前回紹介したMarburgから東に100km強というところでしょうか。当時、ハンガリー王女だったエリザベートが婚約してこの城に入ったのは、わずか4才の時。その後14才で結婚し、この城で3人の子供を授かり、夫に先立たれたのが20才の時です。彼女は、司祭の教えを頑なに守りMarburgに移りますが、弱者に寄り添いながらも人間らしく生きたのはここEisenachWartburgだったはず。そう、彼女が携えたパンがバラに変わったという奇跡が起きたこの城を見たくて、初冬の休日にEisenachを訪れてみました。

雪もチラついて、とても寒い朝です。まだ早い時間にEisenachに到着し、Wartburgに向かいましたが、時間が早すぎて駐車場がどこかよく分かりません。とりあえず、Google Mapの航空写真で山の中腹に駐車場らしき位置を確認しそこに駐車し、城が開く時間を待ってから徒歩で入り口を目指します。バラの奇跡が起きたのは城から出たところらしいので、今歩いているこの登り道で起きたということなんでしょうか。残念だけど、何かを感じることも出来ないほど寒くて、心に余裕が持てません。そそくさと入り口を目指します。

程なく、観光ガイドでよく見るWartburgの城壁が見えてきました。短い橋がかかる小さな入り口を潜り抜け、中に入ります。チケットを購入し内部に入るのですが、場内の説明ツアーもあるようなのでそのチケットも一緒に購入します。ツアーにはまだ時間があるので、城壁の中をぶらつきましょう。入り口を抜けると内部は奥行きのある中庭のようになっていて、中にある門を潜りさらに進むと展望のきくテラスのような広場にたどり着きます。天気の良い日であれば、山を見下ろす絶景を拝めること間違いなしですが、悲しいかな今日は霧が立ち込め、景色は全く見えません。それにしても内側は、城の外観からは想像できない佇まいをしています。こじんまりとした街の通りか、田舎町のような印象です。

ツアーが始まる時間が来たので、集合場所に行ってみると、結構な人が集まってきました。まず最初にRittersaal(騎士の間)というところに通され、ツアーの概要説明を受けます。各部屋を数分目処で案内して回るようです。次に案内されたエリザベートの間は彼女の質素さからは想像できない絢爛豪華な部屋、壁から天井に至るまで金色の装飾が施されています。別に彼女が好んだ装飾という訳でもないでしょうが、どうなんでしょう居心地はよかったんですかね?我々には想することすらできませんが、考えてしまいます。

方伯の間は、四方の壁上方に何やら色彩鮮やかに描かれています。有名な歌合戦の舞台が描かれた大きな絵を見ながら、祝宴の大広間へと歩みを進めます。これは広い! ここで毎晩歌合戦が催されていたんですね。想像すると、なんだかWagnerのオペラ、タンホイザーが聞こえてきそうです。

最後は、この城のもう一つの物語。Luther(ルター)が匿われていた部屋です。なんとも寂しい、机と椅子だけの何もない部屋。ルターにより翻訳された新約聖書は、この部屋から一般市民へと広がっていきました。宗教上大きな意味を持つ転換点がここには存在していたんですね。

Wartburgで有名なEisenachですが、実はいろいろな側面を持っています。Johann Sebastian Bach(バッハ)の出生地でもあるこの街には、少年期を過ごした家が残されており公開されています。また、以前ドイツの街歩きシリーズで紹介した、Jenaで光学の基礎を築いたErnst Karl Abbe(エルンスト・アッペ)の出生地であること、等など。。。でもどうしても立ち寄りたかったのは、Automobilwerk Eisenach, AWE (アイゼナッハ自動車製作所)、今は博物館として公開されています。BMWが自社ブランドを立ち上げたのがここで、その後Opelが引き継いでいます。

正面には門型の建物が立っており、ちょっと躊躇しますが、誰もいないのでとりあえず通り抜け、博物館の駐車場に車を停めます。そこでは、いかつい機械、多分プレス機でしょうか、何かを威嚇するかのような迫力で迎えてくれます。私のような機械屋にとって、言葉にならない悲哀感を感じてしまうのは何故でしょう。歴史を伝えたいのなら、大切に屋内に保存すればいいのにと思ってしまいます。

ショールームのようなエントランスを抜けて、展示室に入ると雰囲気は一転。スタッフの和んだ会話と共に、明るい展示室が目に入ります。全体的に、こじんまりとしていますね。Zwickauの自動車博物館より小規模です。壁に設けられたパネルには、この工場のスポンサー、BMWOpelの歴史が綴られています。展示品は、クラシックカーと戦後の生産車、最新車の展示はありません。

奥に進むと、当時の工場の全景を模型にして展示してあります。戦時下、そのほとんどが破壊されてしまったらしいのですが、今なお稼働していることにドイツ人の気概を感じました。Eisenachは、ドイツ自動車産業の歴史の中でも大きな意味を持つんですね。

見どころいっぱいで、ドイツ人の心の故郷と呼ばれるEisenach。今度は、春か夏に訪れてみたいと思いました。多分、印象は違っているはずです。